11月に入ったある夜、リビングのテーブルには来年度の受験塾コース案内が置いてあった。小3の息子が4年生になると、今の週1回の講座から「本科コース」に切り替わり、月謝が一気に跳ね上がる。資料の料金表を眺めながら、ふと手が止まった。
積み立ててきたNISAの一部を、このタイミングで取り崩すことになるかもしれない。そう気づいた瞬間、意外と自分の中に答えがないことに驚いた。「いつ売ればいいのか」「いくら売ればいいのか」「売ったら非課税のメリットはどうなるのか」。積み立て方は散々調べてきたのに、使うときのことはまったく考えていなかった。この記事では、教育費がかかるタイミングに合わせてNISAをどう取り崩すか、私が実際に考えた基準をまとめておく。
※本記事は情報提供を目的としています。投資に関する最終判断はご自身の責任でお願いします。
NISAは「貯めるノウハウ」ばかりで「使うタイミング」の話がない
口座の開き方、銘柄の選び方、毎月いくら積み立てるか。NISAについて調べると、こうした「貯めるフェーズ」の情報はいくらでも出てくる。私自身も、放置していたNISAを動かし始めたときはそうした情報を頼りにした。
でも教育費は、毎月じわじわ出ていくお金だけではない。中学受験の塾代が本格化するタイミング、入学金、留学や一人暮らしの準備費用のように、ある時期にまとまった金額が必要になる場面がある。そのとき初めて「貯めてきたものをどう使うか」という、積み立てとは逆方向の判断が必要になる。ここを考えずに積み立てだけを続けていると、いざ必要になったタイミングで慌てて売ることになりかねない。

新NISAは「売ったら終わり」ではない。非課税枠が翌年に戻る仕組みを知る
取り崩しを考える前に、新NISAの制度を正しく理解しておくと、売ることへの抵抗が少し軽くなる。
売却したときの利益にも税金がかからない
NISA口座内で得られる利益は、保有中の分配金だけでなく、売却して得た利益(譲渡益)にも税金がかからない制度とされています。通常の課税口座であれば売却益に約20%の税金がかかりますが、NISA口座ならその分がそのまま手元に残る。教育費のために売却すること自体は、非課税のメリットを損なう行為ではない。
売った分の枠は翌年に復活する(ただし年間投資枠には上限がある)
新NISAでは、生涯にわたって非課税で保有できる上限(非課税保有限度額1,800万円)のうち、売却した分の枠は翌年以降に復活する仕組みになっているとされています。「売ってしまったら、その枠は二度と使えない」という旧NISAの感覚のままだと、取り崩しに強いブレーキがかかります。この仕組みを知っているだけで、必要なタイミングで必要な分を売る判断がしやすくなりました。
ただし復活するのはあくまで生涯の非課税保有限度額の枠であり、年間に投資できる金額(年間投資枠)には上限があります。売った翌年にすぐ同じ金額を再投資できるとは限らない点は押さえておきたい。
教育費を払うタイミングで取り崩すときに私が決めた3つの基準
制度を理解したうえで、実際にいつ・どれだけ売るか。私は次の3つを基準にすることに決めた。
①支払いの1〜2年前から、少しずつ現金化を進める
入学金や受験料のように「支払う時期」がほぼ確定している費用は、必要になる直前に全額を売ろうとすると、たまたまその時期に相場が下がっていた場合のダメージをそのまま受けてしまう。私は、支払い時期が見えている金額については、1〜2年ほど前から毎月少しずつ売って現金に移すようにしている。積み立てるときにドルコスト平均法で時間を分散したのと同じ考え方を、取り崩す側でも使うイメージだ。
②一括で全部売らず、必要な分だけ複数回に分けて売る
「まとまったお金が必要だから、必要額ぴったりを一度に売る」という発想も分かるが、私はあえてしない。数回に分けて売ることで、売るタイミングの相場に結果が左右されすぎるのを避けられる。多少手間はかかるが、積み立てのときと同じ「時間を分散する」考え方を、売るときにも当てはめているだけだ。
③生活防衛資金とは別に「教育費用のバケツ」を分けておく
生活防衛資金(生活費3〜6ヶ月分の現金)は、あくまで緊急時のためのお金で、教育費の支払いに使うものではない。私は証券口座の中で、投資信託を「長期で置いておく分」と「数年以内に教育費として使う予定の分」を自分の中で分けて管理するようにしている。口座を分けられなくても、エクセルや手帳に「このファンドのこの金額は、再来年の入学金用」とメモしておくだけで、相場が動いたときに慌てて全部を売ってしまうような判断ミスを減らせると感じている。
塾の資料を前に、息子と話したこと

資料を見ながら固まっている私に、息子が声をかけてきた。
「パパ、それ何の紙?」
「来年から始まる塾のコースの案内だよ。お金、結構かかるんだ」
「ぼくのため?」
「そう。だから前から少しずつ貯めてきたお金を、ここで使おうと思ってる」
「貯めたお金、使ったらなくなるやん」
「使う分は減るけど、また別のところで貯め直せるようになってるんだよ」
息子にとって「貯めたお金を使う」のは、ただ減ることのように聞こえるらしい。でも説明しながら、自分自身もこの数年間、増やすことばかり考えていて「使うこと」への心の準備をしてこなかったことに気づいた。積み立ては目的ではなく、必要なときに必要な分を取り崩すための準備だったはずなのに。
数日後の夜、実際に売る分を決める日がきた。証券口座の画面を開いたまま、隣で宿題をしていた息子にもう一度聞いてみた。
「今日、ちょっとだけ売ることにしたよ」
「全部?」
「ううん、必要な分だけ。残りはまだ置いておく」
「なんで全部じゃないの?」
「全部売っちゃうと、その後また増えるチャンスも全部手放すことになるからね」
言葉にしてみると、自分の中の判断基準がはっきりした。必要な分だけを、必要なタイミングで。残りは置いておく。それだけのことなのに、実際にボタンを押すまでは何度も迷った。積み立てるときの「とにかく続ける」と違って、取り崩すときは「どこまでで止めるか」を自分で決めなければならない。その判断の心細さは、積み立てだけをしていた頃には想像していなかったものだった。
まとめ
- NISAは売却益も非課税。教育費のために売ること自体は非課税のメリットを損なわない
- 売った分の非課税枠は翌年以降に復活するとされているが、年間投資枠には上限がある
- 支払い時期が見えている費用は、1〜2年前から少しずつ現金化して相場の影響を分散する
- 一括で全部売らず、複数回に分けて売ることで売却タイミングのリスクを下げる
- 生活防衛資金とは別に「教育費用のバケツ」を自分の中で分けて管理する
NISAは「始めること」がゴールではなく、必要なときに必要な分だけ安心して取り崩せることがゴールだと、今回のことで実感した。もしまだ教育費の総額や支払いのタイミングを具体的に把握できていないなら、まず全体像を数字にしてみることから始めてみてほしい。

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